小さな約束

数日前の新聞の投稿欄に、60歳の女性が書いた記事が載っていた。
 
その女性は40数年前、還暦になったら一緒に旅行をしよう、と友人数人と約束をしていたらしい。そして40年以上経った今年、無事に約束を果たした、とあった。
親や夫の介護で参加できない友人もいたが、英文学出身の彼女達は念願のイギリス旅行をしたらしい。
この記事を読んで、ある記憶が甦った。

小学生の頃、同級生だったMちゃんとある約束をした。
「二十歳の12月22日に、札幌のテレビ塔の下で会おう。目印は赤いチェックのマフラー」

Mちゃんとは仲良くしていたが、一番の友達という訳ではなかった。
真面目なMちゃん、お母さんも兄弟も皆、真面目で地味だった。
ボソボソと小さな声でしゃべる。
天然パーマのくりくりした頭をしていた。
でも私の突拍子もない発言や、能天気な発言にも嫌な顔をせず付き合ってくれたような気がする。
どちらかが引っ越しても、違う学校に行っても、絶対に再会しようね、と何度も約束した。
遠くの大学に進学しても大丈夫なように、帰省しやすい時期を選んだ記憶がある。
札幌なら交通の便もいいし、と話したことも覚えている。
絶対、行くからね、と何度も確認し合った。
中学生になって、Mちゃんは引っ越したが、その頃はあまり付き合いもなく疎遠になっていた。
でも約束は覚えていた。

20歳になった時、私は札幌でも東京でもなく、遠い外国の地にいた。
約束の日に、時差を計算しながら「Mちゃん、行けなくてごめんね」とそっと呟いた。
赤いチェックのマフラーをしながら、寒い大通り公園に佇んでいる20歳のMちゃんを想像した。
でもMちゃんは本当はそんな子供時代の約束はすっかり忘れていたかもしれない。
遠い異国にいた私は確かめる術もなかった。

人はいろいろな場面で約束をする。
それは通り一遍の社交辞令だったり、切実なものだったり。
でも人は変わり、時は過ぎていく。
あんなに切実に、何度も念を押しながらMちゃんと約束を交わした時、小学生の私達は同じ時は二度と訪れず、時は過ぎ、人は離れ離れになっていくことを既に知っていたのかもしれない。

新聞記事を読みながら、そんなことをぼんやり思った。
by bake-cat | 2008-07-25 22:46 | ひとりごと

ばけねこです. 美しい自然に囲まれた小さな町で細々と音楽活動をしています


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